出版社に落ちた人のブログ。

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集英社に最終面接で落ちた話。【2】

【筆記試験編】

 通過率3~4割?(2000人強→1000人くらい)

 

さて、ESの次は筆記試験。

筆者は三大出版の筆記試験しか受けていないが、受けた限りで言えば出版社の筆記試験は特殊で、①自社作成問題、②理不尽・カルトな難易度、③大喜利じみた作文・創作問題といった特徴がある。巷では、出版社の筆記試験は難しいと評判らしいが、通ることそのものは難しくない。何度も言うが、競争相手は自分と同じ就活生なのである。

  集英社の筆記試験の会場は、神保町にある法政大学。御社から徒歩5分くらいのところにある。ちなみに開始時刻は朝九時から、低血圧な筆者のコンディションは低調だった。この日のために対策らしい対策(予定稿を準備したり、難読漢字を対策したり)はしなかったが、一カ月ほど前から電車の空き時間に朝日キーワードを通読するようにしていた。これ一冊読みこんでいれば、最低限の時事には対応できると思う。

 ちなみに集英社の筆記試験は小学館の二次面接日と丸被りしており(例年ぶつけているらしい)、三大志望者はここでどちらを選ぶかを迫られる*1。筆者はちょうど小学館の面接で爆死していたために受けることができたが、小学館に落ちていなかったら集英社の筆記試験はまちがいなくパスしていた*2

 さて、会場につくと当然、就活生だらけ。キャリーバッグを引いている地方組もちらほら見える。記憶が正しければ、私服の方が多かったと思う。当たり前だが筆記試験の服装など誰も見ているわけないので「スーツの方がいいですかね?」「私服は目立った方がいいんですか?」とか考えるだけ時間の無駄である。テメエの都合に合わせればよい。筆者は無印良品のチェックシャツ+チノパンという気の抜けた恰好で参戦した。

 スタッフの誘導で試験教室にたどり着く。すでに7割方埋まっていた。ちらほら「一般教養の天才」だとかマスコミ塾の試験問題集を机に広げているのがみえる*3

試験教室は受験番号ごとに分かれている。たとえば1番から500番まではA教室、500番から800番まではB教室…といったぐあい。受験番号はプレエントリーの登録番号と同じらしく(要はESに落ちた人間の番号はない)、実際の受験番号はとびとびになっている。教室の広さも各々ちがうだろうが、一教室あたりに100人弱ぐらいだった気がする。筆者のプレエントリーは300番代(解禁直後に登録した)だったので最初の教室に配置された。ちなみに受験番号は10000万番代まであった。プレエントリー段階では1万人を超えていたということだろうか、流石人気企業。

 諸注意ののち、さっそく試験問題と解答用紙が配られた。解答用紙は表面がマークシート形式、裏面が記述問題形式になっているのが見て取れる。ちなみにマークシートの人物名の記入例は自社キャラ(リョウツとかだったと思う)だった。試験問題にも共通するのだが、集英社は随所にこういう遊び心を見せてくる。

 肝心の筆記試験内容について。大きく分けると①時事・雑学問題、②英語問題、③一問一答問題、④漢字問題にわかれている(作文は後ほど説明)。

 ①時事・雑学問題

問題の大部分を占めるのが時事・雑学問題である。政治、ファッション、スポーツ、エンタメ、文芸など手広く出題されるが特徴で、いわゆる出版社らしい問題といえるだろう。顔写真で芸能人を当てさせる問題だとか、ベストセラーに関する正誤問題だとか、出題形式はさまざまなので対策も打ちづらい。ただ、難易度は三大の中でも並み程度だった。ファッション関係の問題は逆に簡単すぎて拍子抜けだった。チェスターコートとかボタニカル柄について答えさせる程度。ファッション誌愛読者としては、創刊30周年を迎えたメンズノンノの創刊号の表紙は誰かとか、ニッチな問題が出るものと思い込んでいた(答えは阿部寛)。政治経済も重箱の隅をつつくような小学館に比べて、良心的な問題が並んでいたと思う。とはいえ、出題ジャンルは本当に広いので雑学王が有利なのは変わりない。ただし、マンガに強い集英社の割にマンガ関連問題がほとんど出なかった。申し訳程度に計算させる算数問題もあったが、数学の占めるウェイトがダントツで低いのも集英社の特徴だろうか。

ただし、難易度がそれほど高くない=差がつきにくいのも確かだろう。そうなると他で差が付くのが常である。個人的には一番重要度の低いパート(かくいう筆者は凡ミスを連発した)。

 ②英語問題

センター試験の大問ような形式でぴったり十問出題される。難易度もまさにセンター試験といった趣で、唯一満点をとった自信のあるパート。

問題はオタク趣味っぽい外人夫婦が会話したり、一緒に日本のアニメエキスポに来たり、みたいな内容。別にメタ問題(=問題外の知識で解ける問題)はなく、ごく普通の文法問題+長文問題といったかんじ。正答の根拠も問題文中にしっかり書いてある。ただ、時間がなくて英語を後回しにしている人もいそう。難易度が低いので、取りこぼしは避けたいパート。重要。

 ③一問一答問題

記述形式で単語を一問一答させてくる。全部で25問とかだったと思う。

「2016年マンガ大賞オトコ編の受賞作品は?(ゴールデンカムイ)」「鳥獣花木図屏風で知られる近世日本画家は?(若冲)」など時事と教養問題が絡めて出されるが、難易度もそこまで高くないので、満点も少なからずいることだろう。ただ、「ジムノペディで知られる作曲家は?(エリック・サティ)」とかカフカあたりの作家の名前を答えさせる問題もあったと思う。ここらへんは教養勝負になってくるが、対策できる部分でもないので興味のない人間には厳しい。

自分は「高橋由伸」(素で漢字をまちがえる)と「腸内フローラ」(苦し紛れに腸内フラワーと書いた記憶がある)が書けなかったので満点は取れなかったが、9割くらいは取れたと思う。英語問題に引き続き、ある程度確実に得点できるパート。特に重要。

 ④漢字問題

オーソドックスな漢字の読み書き。難易度的には漢検準2級くらいのイメージだが、意外と使わない言葉とか忘れがちな漢字を攻めてくる。最後まで「ハジける」が書けなかった自分に驚き。四字熟語とかことわざ関係の出題もあったが、受験勉強でも見かけたことのないようなマイナー問題だった気がする。ちょくちょく取りこぼして、得点率は8割くらい。

きちんと対策すれば満点近くとれるパートだと思うが、そこまでして漢字に力を入れてもしょうがない。というか筆記試験全般に言えることだが、筆記試験対策に一生懸命になってもしょうがない。時間対効果が薄すぎる。同じ時間をかけるなら、企画とか志望動機とかをせっせと固める方が有意義だろうし、素直に自分磨きしたほうがよさそう。

 

筆記試験が終わると、小休憩を挟んで作文問題。

いわゆる三題噺が出題される(知らない人は適当にググってください)。

 お題は「アルファベット三文字」「珍記録」…と、あとなんかだった(思い出したら付け加える)。基本的にうまい三題噺には2パターンあると思っていて、一つはお題を非常にうまく使いこなしてストーリーを構成する場合、もう一つは既にできあがっているストーリーにうまく入れ込む場合。前者はセンス勝負で、後者は対策勝負といったかんじだろうか。別にどっちでもいいと思うが、明らかにお題が浮いてたり、ストーリーが支離滅裂だったりすると読む側も気持ちよくない。

 筆者は特に予定稿とか準備しなかったのだが、アイデアは3つくらい用意していた。電車の中とか休憩時間中に思いついたものをメモに書き留めておいて、書き出しとオチだけイメージしておいたもの。複数考えておいたのは、当然お題との相性があるから。

「なんだ、ちゃんと対策してるんじゃん」と思われるかもしれないが、本当に行きの電車の中で思いついたアイデアを形にしただけである。結局、書いたのは休憩中に思いついた時事ネタとお題を組み合わせた奴だったし。ただ、使わなかったアイデアも気に入っているし、そこそこ汎用性のあるネタだと思っている。(興味のある人はメールください。)

 作文問題のウェイトはわからないが、「筆記試験壊滅したけど通った!」という人もいるようにそれなりに重要なのだと思う。というか、知識問題とちがって作文問題はその場で対処できるのだから、一番気合いをいれて臨むべきである。最重要。

 さて、筆者は幸運にも三大出版の筆記試験はすべてパスすることができたが、せっかくESが通ったのに筆記で落ちるのはあまりに勿体ない。高倍率勝負・面接官との相性が鍵になる面接とちがって、筆記試験はうまくやれば(≠努力すれば)確実に通ると感じた。知識問題は点数が高いに越したことはないし、作文問題も読める文章を書くことができればそれだけで優位に立てることだろう。ある程度は客観的な判断基準が用意されるのが筆記試験なのである。逆にいうと、そのための最低限の常識力とセンスを用意できなければ、残念ながら出版社には向いてないのだと思う(別に筆者も出版社に向いてるわけではないんだけど)。

ともあれ、ここを抜けてやっとスタートラインになる。本当の戦いはこれから(続く)。

 

*1:集英社は午前、小学館は午後からなので全力でダッシュすればギリギリ間に合うのでは?とは思った

*2:だが、そんな集英社が最終面接まで漕ぎ着けることになるのだから世の中分からないものである

*3:この風景はどこも変わらない。小学館の試験会場に向かう途中、すごい勢いでお手製の試験問題集を解いている就活生に出会ったのを覚えている。なんというかすごかった

集英社に最終面接で落ちた話。【1】

【はじめに】

 

集英社に最終面接で落ちた。

 

 

ので、その話をする。

  

出版不況といわれる時代でも三大出版(小学館集英社講談社)に代表される大手出版社は大人気だ。十人前後、下手しなくても片手で数えられる人数の採用枠に数千人が応募してくる。各社百人単位、大手だけでも千人近く採用を行う総合商社とは本質的に就職活動のスタイルがちがうと云っていい。ぶっちゃければ運ゲーである(ただし、運ゲーに持ち込めるだけの最低限の実力は必要なんだけど)。

さて、ネットでググれば大手出版社の就活体験記はいくらか出てくる。マスコミ塾から個人ブログまで色々ある。あるいは、出版社志望がこぞって買い求めるマスコミ就活読本というものもあるだろう。だが、その実態は依然として知れていない。そして、毎年数千人の出版志望者が夢破れていく。

これは、集英社2017卒採用の数千人(プレエントリー段階では一万人超)の中から最後の二十人ちょっとに残った文系大学生のルポルタージュである。そして、本体験記は失敗談でもある。集英社の切符は目の前で消えていった。受けた出版社は4社だが、もちろん他社もすべて落ちた。

筆者は、来年から全く関係のない業界ではたらく。出版業界に未練がないかと云われるとウソだし、この記事を書こうと思い立ったのも哀しいかな、ただの高慢と見栄である。そんな高慢と見栄ではじまった本記事だが、興味本位で覗きにきたであろう読者にそれなりに愉快で、多少なりとも有益な読み物になればいいと思う。

 

そして、こんな記事を読んだところで99.5%は落ちるに決まっているのだが、これから先、出版社を受けようと考えている哀れな就活生にせめてもの手向けとなることを祈りたい。

 

【筆者について】

 

筆者のスペックをまとめると以下になる(唐突な自分語り)。

・国立大学文系。社会科学系。
・志望業界はインフラと出版。あとはコンサルとか商社を疎らに受けた。就活の軸は「(なるべく)転勤がないこと」。あとは「お金もらえそう」。
・マスコミ塾とか出版サークルとかそういったものには所属しなかった。
・マンガ雑誌は月に30~40冊くらい読む。マンガ以外の雑誌も意識的に読む方。
・体育会、留学経験などはなし。特筆すべき属性はないが、TOEICは900点くらい。

 端的にいえば、サブカル拗らせた意識高い系大手病ってかんじだが、実際には大して意識高いことをやってるわけでもなく、日々マンガを読んでいるだけの自堕落な学生である(就活の軸にクズさが透けて見える)。

売り手市場だったことも手伝って就活そのものは無事に終えることができたが、就職氷河期であれば目も当てられないことになっていたのは想像に難くない。

 そして、出版社の戦績は以下である。 

小学館一次面接落ち
講談社三次面接落ち
集英社四次面接(最終面接)落ち
白泉社ES落ち

単純に三大出版+白泉社。基本的にマンガがやりたかったが、マンガをやっている専門出版は白泉社しか応募せず。大手病といわれればそれまでだが、それ以外の会社は「自分が定年するまで存在しているか危ういかな」という気持ちはあり、応募しなかった(講談社の面接で「ちゃっかりしてるね」と評される)。角川に応募しなかったのは時間がなかったのもあるが、特にやりたいことがなかったのと妙に食指が伸びなかったため。あと、薄給という噂を信じ込んでいた。

白泉社にESで落ちたりしているが*1(ガチで凹んだ)、他社に関しては実力を考えれば健闘したほうだろう。講談社も三次まで進むことはできた。健闘したところでNNTであることには変わりないが。

今思えば出版志望と名乗るのもおこがましいほどのミーハーな就活生である。本当に出版にこだわるなら、いくらでも受けれたはずなのだから。だから「ステータスが欲しかっただけなんじゃん?」と突っ込まれれば、甘んじて認める。だが、出版一本に絞るのは(一部の超人を除いては)本当に愚かしいのでやめるべき。お兄さんとの約束だ。

本ルポは集英社に落ちた話なので、他社の話は本筋ではない。ただ、聞かれれば答えるし、雑談程度には挟んでいくことになるだろう。

 

【ES編】

 

通過率6割くらい?(3000~4000→2000人?)

 

 

2017卒は、就活の時期は直前になってズレ込むという経団連の陰謀により、少々変則的なスケジュールとなった。小学館講談社は2月にサイトがオープン、就活解禁前にESを公開するといったぐあいである。しかし、集英社に関してはきっちり3月にサイトオープン、ESの締め切りも三大出版の中では一番おそく設定されていた。もっとも、集英社の締め切りはもともとおそいようだが、来年からは三大とも足並みを揃えることだろう。

さて、集英社は出版社らしいオーソドックスなESを課してくる。講談社ほどではないが、分量も十分。むろん、作文もある(筆記試験でも書かせてくるのは三大でもここだけ)。志望部署も3次志望まで書かせて来るので、志望理由は固めておくに越したことはない。ちなみに学歴は一切書かせない。

印象的だったのは、「あなたの好きなもの」について列挙させるシート。好きな小説、マンガ、サイトなどを理由とともにひたすら複数列挙するもの。変化球を混ぜ込むならともかく、「俺ってばこんなマイナーな作品知ってるんだぜ?!」みたいなアピールはダサいのでやめること。基本的には売れ筋の作品を挙げていくのがいいと思う。さすがに「ワンピ、ナルト、銀魂」みたいな挙げ方はナンセンスすぎるだろうけど。

理由は一行で書かないといけないので(一番好きなマンガ、小説だけは3行)、うまくまとめようとすると必然的にキャッチコピーっぽくなる。たとえば、「ハチミツとクローバー」は「この作品には、ありとあらゆる少女マンガのDNAが眠っている」といったかんじ(そこ、スベってるとか言わない)。ちなみに面接で「好きなマンガは?」「好きな小説は?」を死ぬほど聞かれることになるので、ここで整理しておくと答えるのが楽。

作文についてはお題に沿って800字で書かせる。ちなみにお題は「これって私だけ?」、自分の趣味や(正しい意味での)性癖がテーマ。筆者は、文章書くのが嫌いな性分ではないので(そうでもなければ、こんな記事書いたりしない)気楽に書き下ろした。さすがに内容を曝したりはしないが、とにかく書き出しとタイトルだけは気をつけ、「読者に読ませること」を意識した。作品をおもしろくするためなら、多少の脚色は許されると思う。そして、あんまりふつうのことを書いてもしょうがないので、アイデアはきちんと捻り出す。ちなみにESの作文のできを面接で褒められた記憶がある*2。面接官もその場で読んでるらしい。

ここまで色々と書いてきたが、結局は志望動機が一番のカギになるのだろう。一次面接はともかく、面接が進むにつれて志望動機は深堀りされるので練っておくに越したことはない。

ちなみに自分は志望動機に「小説が好きだから」「マンガが好きだから」とは一切書かなかった。面接でも言わなかった。せいぜいが「この雑誌のこういうところが好き」「この作者のこういう作風が好き」と答える程度。もちろん、マンガや小説は好きである。だが、それは前提なのである。

あと「マンガのおもしろさを全世界に広めたい」「出版業界を自分の力で盛り上げていきたい」みたいな綺麗事も書かなかった。それで通る人もいるかもしれないが、抽象的な理由づけでは「自分が選ばれる理由」にはなりえないと思ったからだ。少なくとも自分のキャラでは勝てないと思った。大して取り得のない自分が「マンガが好き」とか言っても数千人もの志望者に埋もれてしまうわけで、むしろ「最近、自分の愛読している雑誌が本格的につまらないので、自分だったらこういう作家構成で面白くします!」「御社のこの雑誌の部数を対抗誌(売り上げトップ)に負けないだけ伸ばしたい。その理由は、~~だから」といったふうに可能な限り、具体的な志望動機で勝負した。何度も言うが自分のキャラに合わせた。ひたすらマンガ雑誌を読み漁っていた経験があった。だから雑誌ごとのカラーの違いくらいは知っている、そんなキャラクターを目指した。ただし、相手は本職なので「こんなこと知ってるんですよ!」アピールは無駄である。とにかく自分の意見を言えるように心がけた。 

答えがあるわけでもないが、三大出版のESに関してはきちんと書けば大抵通ると思う。ただ、やはり分量の多さと手書きの面倒臭さはある。いつだか講談社の人事が「ESに応募できるだけで0次選考を通ったようなもの」と言っていたのを思い出す。出せるだけで、それなりということなのだろう。

だが、戦いはまだまだ続く。数百倍にも及ぶ戦いを考えれば、ESだけで良くも悪くも二千通は通るのだから*3

 

 

*1:落ちた理由についてはなんとなく察している

*2:文章が上手いと褒められることに特に意味はないのだろう。本気で感心してたら素直に褒めたりしないし、そもそも小説家やライターの求人ではないのだから。だいたい文章の上手さなどどうにでもなる。小学館の面接でも「君、文章上手いね」といわれてヘラヘラ喜んでたら、速攻で落ちた。

*3:なお、小学館はESで800人くらいに絞られたと記憶している