集英社に最終面接で落ちた話。【1】
【はじめに】
集英社に最終面接で落ちた。
ので、その話をする。
出版不況といわれる時代でも三大出版(小学館・集英社・講談社)に代表される大手出版社は大人気だ。十人前後、下手しなくても片手で数えられる人数の採用枠に数千人が応募してくる。各社百人単位、大手だけでも千人近く採用を行う総合商社とは本質的に就職活動のスタイルがちがうと云っていい。ぶっちゃければ運ゲーである(ただし、運ゲーに持ち込めるだけの最低限の実力は必要なんだけど)。
さて、ネットでググれば大手出版社の就活体験記はいくらか出てくる。マスコミ塾から個人ブログまで色々ある。あるいは、出版社志望がこぞって買い求めるマスコミ就活読本というものもあるだろう。だが、その実態は依然として知れていない。そして、毎年数千人の出版志望者が夢破れていく。
これは、集英社2017卒採用の数千人(プレエントリー段階では一万人超)の中から最後の二十人ちょっとに残った文系大学生のルポルタージュである。そして、本体験記は失敗談でもある。集英社の切符は目の前で消えていった。受けた出版社は4社だが、もちろん他社もすべて落ちた。
筆者は、来年から全く関係のない業界ではたらく。出版業界に未練がないかと云われるとウソだし、この記事を書こうと思い立ったのも哀しいかな、ただの高慢と見栄である。そんな高慢と見栄ではじまった本記事だが、興味本位で覗きにきたであろう読者にそれなりに愉快で、多少なりとも有益な読み物になればいいと思う。
そして、こんな記事を読んだところで99.5%は落ちるに決まっているのだが、これから先、出版社を受けようと考えている哀れな就活生にせめてもの手向けとなることを祈りたい。
【筆者について】
筆者のスペックをまとめると以下になる(唐突な自分語り)。
・国立大学文系。社会科学系。 ・志望業界はインフラと出版。あとはコンサルとか商社を疎らに受けた。就活の軸は「(なるべく)転勤がないこと」。あとは「お金もらえそう」。 ・マスコミ塾とか出版サークルとかそういったものには所属しなかった。 ・マンガ雑誌は月に30~40冊くらい読む。マンガ以外の雑誌も意識的に読む方。 ・体育会、留学経験などはなし。特筆すべき属性はないが、TOEICは900点くらい。 |
端的にいえば、サブカル拗らせた意識高い系大手病ってかんじだが、実際には大して意識高いことをやってるわけでもなく、日々マンガを読んでいるだけの自堕落な学生である(就活の軸にクズさが透けて見える)。
売り手市場だったことも手伝って就活そのものは無事に終えることができたが、就職氷河期であれば目も当てられないことになっていたのは想像に難くない。
そして、出版社の戦績は以下である。
・小学館一次面接落ち ・講談社三次面接落ち ・集英社四次面接(最終面接)落ち ・白泉社ES落ち |
単純に三大出版+白泉社。基本的にマンガがやりたかったが、マンガをやっている専門出版は白泉社しか応募せず。大手病といわれればそれまでだが、それ以外の会社は「自分が定年するまで存在しているか危ういかな」という気持ちはあり、応募しなかった(講談社の面接で「ちゃっかりしてるね」と評される)。角川に応募しなかったのは時間がなかったのもあるが、特にやりたいことがなかったのと妙に食指が伸びなかったため。あと、薄給という噂を信じ込んでいた。
白泉社にESで落ちたりしているが*1(ガチで凹んだ)、他社に関しては実力を考えれば健闘したほうだろう。講談社も三次まで進むことはできた。健闘したところでNNTであることには変わりないが。
今思えば出版志望と名乗るのもおこがましいほどのミーハーな就活生である。本当に出版にこだわるなら、いくらでも受けれたはずなのだから。だから「ステータスが欲しかっただけなんじゃん?」と突っ込まれれば、甘んじて認める。だが、出版一本に絞るのは(一部の超人を除いては)本当に愚かしいのでやめるべき。お兄さんとの約束だ。
本ルポは集英社に落ちた話なので、他社の話は本筋ではない。ただ、聞かれれば答えるし、雑談程度には挟んでいくことになるだろう。
【ES編】
通過率6割くらい?(3000~4000→2000人?)
2017卒は、就活の時期は直前になってズレ込むという経団連の陰謀により、少々変則的なスケジュールとなった。小学館と講談社は2月にサイトがオープン、就活解禁前にESを公開するといったぐあいである。しかし、集英社に関してはきっちり3月にサイトオープン、ESの締め切りも三大出版の中では一番おそく設定されていた。もっとも、集英社の締め切りはもともとおそいようだが、来年からは三大とも足並みを揃えることだろう。
さて、集英社は出版社らしいオーソドックスなESを課してくる。講談社ほどではないが、分量も十分。むろん、作文もある(筆記試験でも書かせてくるのは三大でもここだけ)。志望部署も3次志望まで書かせて来るので、志望理由は固めておくに越したことはない。ちなみに学歴は一切書かせない。
印象的だったのは、「あなたの好きなもの」について列挙させるシート。好きな小説、マンガ、サイトなどを理由とともにひたすら複数列挙するもの。変化球を混ぜ込むならともかく、「俺ってばこんなマイナーな作品知ってるんだぜ?!」みたいなアピールはダサいのでやめること。基本的には売れ筋の作品を挙げていくのがいいと思う。さすがに「ワンピ、ナルト、銀魂」みたいな挙げ方はナンセンスすぎるだろうけど。
理由は一行で書かないといけないので(一番好きなマンガ、小説だけは3行)、うまくまとめようとすると必然的にキャッチコピーっぽくなる。たとえば、「ハチミツとクローバー」は「この作品には、ありとあらゆる少女マンガのDNAが眠っている」といったかんじ(そこ、スベってるとか言わない)。ちなみに面接で「好きなマンガは?」「好きな小説は?」を死ぬほど聞かれることになるので、ここで整理しておくと答えるのが楽。
作文についてはお題に沿って800字で書かせる。ちなみにお題は「これって私だけ?」、自分の趣味や(正しい意味での)性癖がテーマ。筆者は、文章書くのが嫌いな性分ではないので(そうでもなければ、こんな記事書いたりしない)気楽に書き下ろした。さすがに内容を曝したりはしないが、とにかく書き出しとタイトルだけは気をつけ、「読者に読ませること」を意識した。作品をおもしろくするためなら、多少の脚色は許されると思う。そして、あんまりふつうのことを書いてもしょうがないので、アイデアはきちんと捻り出す。ちなみにESの作文のできを面接で褒められた記憶がある*2。面接官もその場で読んでるらしい。
ここまで色々と書いてきたが、結局は志望動機が一番のカギになるのだろう。一次面接はともかく、面接が進むにつれて志望動機は深堀りされるので練っておくに越したことはない。
ちなみに自分は志望動機に「小説が好きだから」「マンガが好きだから」とは一切書かなかった。面接でも言わなかった。せいぜいが「この雑誌のこういうところが好き」「この作者のこういう作風が好き」と答える程度。もちろん、マンガや小説は好きである。だが、それは前提なのである。
あと「マンガのおもしろさを全世界に広めたい」「出版業界を自分の力で盛り上げていきたい」みたいな綺麗事も書かなかった。それで通る人もいるかもしれないが、抽象的な理由づけでは「自分が選ばれる理由」にはなりえないと思ったからだ。少なくとも自分のキャラでは勝てないと思った。大して取り得のない自分が「マンガが好き」とか言っても数千人もの志望者に埋もれてしまうわけで、むしろ「最近、自分の愛読している雑誌が本格的につまらないので、自分だったらこういう作家構成で面白くします!」「御社のこの雑誌の部数を対抗誌(売り上げトップ)に負けないだけ伸ばしたい。その理由は、~~だから」といったふうに可能な限り、具体的な志望動機で勝負した。何度も言うが自分のキャラに合わせた。ひたすらマンガ雑誌を読み漁っていた経験があった。だから雑誌ごとのカラーの違いくらいは知っている、そんなキャラクターを目指した。ただし、相手は本職なので「こんなこと知ってるんですよ!」アピールは無駄である。とにかく自分の意見を言えるように心がけた。
答えがあるわけでもないが、三大出版のESに関してはきちんと書けば大抵通ると思う。ただ、やはり分量の多さと手書きの面倒臭さはある。いつだか講談社の人事が「ESに応募できるだけで0次選考を通ったようなもの」と言っていたのを思い出す。出せるだけで、それなりということなのだろう。
だが、戦いはまだまだ続く。数百倍にも及ぶ戦いを考えれば、ESだけで良くも悪くも二千通は通るのだから*3。